電子書籍「赤い三日月(上・下)」

書籍

〇電子書籍「赤い三日月(上・下)-小説ソブリン債務-」

(2011年9月刊行 2014年12月文庫版、2017年12月電子書籍版 黒木 亮著)

 ―あらすじ―

 東西銀行の但馬一紀は、トルコで初めて獲得した融資案件の主幹事を、担保差入制限条項をめぐる見解の相違から失いかける。

 一方、但馬が頼りとする女性官僚ニルギュン・エンヴェルは、巨額債務と政治腐敗を抱える母国トルコの舵取りに頭を悩ませていた。

 湾岸戦争の勃発、国家財政の悪化、米格付会社による投資適格剝奪……ソブリン債はデフォルトの危機に瀕した。

 米国財務省からの圧力が強まるなか、但馬は「十年に一度の意味あるディール」としてトルコ経済救済のためのシンジケートローン組成に挑み、想像を絶する苦悩の日々が始まった――。

 邦銀バンカーと女性官僚達の奮闘、巨大銀行と国家の暗闘、新興国の債務管理の実態を迫真の筆致で描く超リアル国際金融小説。

 ―雑感― 

 電子書籍なのでページ感はわかりにくいが、文庫版の上下巻で約550ページ。

 時代背景は1980年代後半から1995年頃。

 本作も登場人物のバックボーンや人物像がしっかり描かれていて、嫌みな登場人物もうちにもいるいる!と思いながら読み進めた。

 ある登場人物が『儲かるディールは年1回くらい転がり込んでくる。グロリアスなビッグディールは2、3年に1回くらい、、、「意味ある」ディールに巡り会えるのは10年に1回しかない、巡り会ったからにはやるだけだ。』という台詞は、業界に長く携わった人にしか言えない台詞でグッときた。

 泥臭く人間関係を築きながら、自国以外の国家の発展の一翼を担うという使命感を持って、頑張る日本人にスゴイなぁとしか言葉が出ない。

 本作は、1990年に起こったイラクによるクウェート侵攻の煽りを受けるトルコ、その32年後の今、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、今も継続している。

 東ヨーロッパの地政学的事情や各国のソブリン債務等について不知であるが、当時のトルコのように東欧諸国も資金調達に苦慮しているのだろうか。

 それとも、バンカー達は戦争終結を見越して、虎視眈々とタイミングをはかっているのか。

 トルコは、現在も高インフレに苦しんでいるし、ガーナは、12月に事実上デフォルトしたとの報道があった。2022カタールワールドカップで優勝したアルゼンチンも高インフレで苦しんでいる。

 これが途上国?新興国?のジレンマというものだろうか。

 ではでは。

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